コラム

建設工事の契約は書面でしないとだめですか?

建設工事では請負契約の書面での締結が建設業法で義務付けられています。その理由や契約書の作成方法がどのように定められているか確認します。

建設工事の契約書作成は建設業法上の義務

民法上の請負契約は書面等を取り交わさずとも両者が合意すれば有効です(「諾成契約」といわれます)。

しかし、建設業法第19条には次のように書かれています。

第19条
建設工事の請負契約の当事者は、
前条の趣旨に従つて、契約の締結に際して次に掲げる事項を書面に記載し、
署名又は記名押印をして相互に交付しなければならない。

「書面に記載」「署名又は記名押印」「相互に交付」が求められています。

これは建設業法の目的である「建設工事の請負契約の適正化等を図ることによつて、建設工事の適正な施工を確保し、発注者を保護」を達成するために重要な事項だからです。

建設業法令遵守ガイドラインには「不適切」な例として次のように書かれています。

※建設業法令遵守ガイドラインはこちら→ https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/1_6_bt_000188.html

【建設業法上違反となる行為事例】
元請けと下請けの間において
①下請工事に関し、書面による契約を行わなかった場合
②下請工事に関し、建設業法第19条第1項の必要記載事項を満たさない契約書面を
交付した場合
③元請負人からの指示に従い下請負人が書面による請負契約の締結前に工事に着手
し、工事の施工途中又は工事終了後に契約書面を相互に交付した場合
④下請工事に関し、基本契約書を取り交わさない、あるいは契約約款を添付せずに、
注文書と請書のみ(又はいずれか一方のみ)で契約を締結した場合

発注者と受注者の間において
①建設工事の発注に際し、書面による契約を行わなかった場合
②建設工事の発注に際し、建設業法第19条第1項の必要記載事項を満たさない契
約書面を交付した場合
③建設工事の発注に際し、請負契約の締結前に建設業者に工事を着手させ、工事の
施工途中又は工事終了後に契約書面を相互に交付した場合

契約締結にはどのような方法があるか?

同ガイドラインでは、契約書の取り交わし方についても3つの方法が書かれています。

①建設業法で定める一定の事項を記載した契約書を取り交わす方法

「一定の事項」についてはガイドライン(建設業法第19条に記載)には15項目が記されていますが、おすすめは「標準約款」というものがありますので、これを活用することです。→ https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/1_6_bt_000092.html

②当事者間で基本契約書を取り交わした上で、具体の取引については注文書及び請書の交換による方法

「基本契約書」を作成し、そこにガイドラインの⑤から⑮までの項目を記載、①から④を記載した注文書・注文請書を都度取り交わすという方法です。継続的に取引がある相手方には有効な方法です。

③一定の事項すべてを記載した「約款」を添付や印刷した注文書・請書を作成し、工事の都度取り交わす方法

③が事例として多いのではないかと思います。見積書を発行して注文書を受けたら請書を発行し、請書の控えと注文書をセットで保管します(見積・注文・請書が3枚綴になっている様式も売っていますね)。ガイドラインには注文書・請書が複数枚にわたる(1枚に書ききれない)場合はそれぞれ割印を押すように書かれています。

FAXでのやり取りではまずい

「でも紙で請書をつくると印紙税がかかる」といって注文書と請書のやりとりをFAXやメールで行うのは「署名又は記名押印」が必要であることから建設業法違反になります。建設工事の請負契約については印紙税の軽減措置が行われています。→ https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/inshi/12/03.htm

ただし、要件(改変ができないことや本人確認などの機能が必要)を満たした電子契約システムを利用した契約は認められており(建設業法第19条第3項、同施行規則第13条の4)、その場合は印紙の貼り付けが不要となります。

※見積書の発行についてはメールでもOKです(改変や本人確認などの技術的基準が求められていない)。電磁的方法の種類及び内容を示した上で、相手方から承諾を得ることが必要です。例えば、「電子メールにPDFファイルの見積書を添付して送付する方法で良いですか?」と相手方の承諾を得る、といったやり方です。

建設業法第20条3項
建設業者は、前項の規定による見積書の交付に代えて、政令で定めるところにより、建設工事の注文者の承諾を得て、当該見積書に記載すべき事項を電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であつて国土交通省令で定めるものにより提供することができる。この場合において、当該建設業者は、当該見積書を交付したものとみなす。